【年金制度改正法案】在職老齢年金制度見直しのポイント
令和7年5月16日に国会へ提出された年金制度改正法案(正式名称:「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」)では、企業経営や人事労務に影響のある重要な制度変更が含まれています。
今回は、その中でも高齢者雇用や人件費設計に関係する「2.在職老齢年金制度の見直し」について解説します。
(前回のコラム「1.被用者保険の適用拡大等」についての解説は【コチラ】)

在職老齢年金制度の見直し
(1)在職老齢年金の概要と現行の問題点
在職老齢年金制度とは、働きながら厚生年金を受給している人の年金を一部または全額カット(停止する)仕組みです。
現行制度では、月額の賃金(賞与含む)と厚生年金を足して50万円を超えた場合に厚生年金がカットされます。
カットされる額は、50万円を超えた部分の半額が年金から支給停止されます。
📝 例)給与賞与:月45万円+厚生年金:月10万円=合計55万円のケース
➡50万円を超えた5万円について、半額の 2.5万円が年金からカットされる。
つまり、本来月10万円支給されるはずの年金が、7.5万円に減ってしまう。
問題点
支給停止された年金が支払われる事はありません。
そのため、就労意欲のある高齢者であっても、「頑張って働けば働くほど年金が減らされるのは損!年金が減らない範囲で働こう!」と考えるようになり、結果として、高齢者が労働時間を調整したり、積極的な就労を控える一因となっていました。
(2)年金カットの基準となる「50万円」を「62万円」に引き上げ
新法案では、(1)の年金がカットされる基準となる「50万円 」を「 62万円」に引き上げます(2026年4月施行予定)。
これにより、(1)の例)で2.5万円カットされていた年金が、満額支給されるようになります。

ポイント
制度の見直しにより、「働きすぎると年金が減るから…」と働くことを控えていた高齢者の方も、これからはフルタイムや高収入の仕事にも前向きにチャレンジしやすくなります。
年金を減らさずにしっかり働けるようになり、“就労による収入”と“年金受給”の両立がしやすくなります。
また、企業にとっても、意欲のある高齢者を柔軟に雇用できる環境が整い即戦力化できる土台ができることで、経験豊富なベテランを活かすチャンスが広がります。
経営者・人事担当者の対応ポイント
- 在職中の厚生年金受給者に対し、制度改正の内容を周知しましょう。
- 経験豊富な高齢社員の雇用契約内容や処遇設計の見直しを検討しましょう。
まとめ:高齢者の働きやすさが向上
今回の改正案では、年金受給者が働き続けても不利益を受けにくい制度に見直されます。
平均寿命と健康寿命が延びる中、働き続けたいと考える高齢者が増えており、
さらに人材確保や技能継承等の観点で、高齢者の雇用活用を検討している企業にとっては重要な追い風です。
社内制度の整備や労働条件の見直しを進める好機といえるでしょう。
なお、この記事の内容はR7年5月21日時点の厚生労働省HPの内容をもとにしています。
今国会で審議中のため、確定ではありませんが、内容を把握しておくことで、制度改正に向けた早めの準備が可能になります。
具体的な対応策については、企業の人事・労務担当者や社労士と相談し、労務管理の見直しを進めていきましょう。
参考資料
- 厚生労働省「年金制度改正法案を国会に提出しました」
- 厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要」
- 厚生労働省「改正事項について解説した補足資料(上の図を含む概要版)」
- 厚生労働省「改正事項について解説した補足資料(詳細版)」